『帝國製自働人形』(ていこくせいオートマタ)


千の桜が帝都に舞ふ 待宵ノ月オペレツタ

パラフヰンオイルの床置電灯 踊る炎煙影ぼふし

あゝ あの光と闇の面影は 同胞と覚しき古馴染

帝國製の自働人形(オートマタ) 憂ふ瞳に映る過去幻影

其れは心の澱深く 遠き廃忘 古の夢


聞こえるは祭り囃子と社を行き交う客人の笑ひ声

縁日の提灯が明々と照らす境内の片隅に

一つ目を支える双手に『見世物一座』と描かれた

タテカン掲げた仄暗い芝居小屋


小屋の前には赤青緑、色とりどりのべべを着た無数の呼込式自働人形

引札をまきながら、客寄せの口上を愛らしく囀れば

見事なまでに一目で客人の好奇の目を集めるのです


『ハイ、御通行中の紳士淑女の皆様がた』

『御用と御急ぎのないかたは、是非ともこちらの見世物一座まで

お立ち寄りになりまして、世にも怪奇で奇妙な芸を、サア、一目ご覧あれ』

『どうぞこちらへ、お代はアトアト入るはタダ、ハイ、寄つてらつしやゐ、見てらつしやゐ』


黒の背高帽にフロツクコートを着た座長

歪に膨らんだ躯を揺らし不真面目な自働人形に鞭を打つ

「声がちひさい、もつと愛想良く、笑へ笑へ」

夜風を切り裂く舶来の鞭の音が響くたび

人形達は一段と声を張り上げ引札を夜空へまくのでありました


「おや? これは……」

見物と洒落込んでゐた一人の紳士、鞭打たれた自働人形へと手を伸ばす

その指先をしとどに濡らすは錆びた香りの真紅の涙

まなこを見開き息を呑む紳士に座長はにいつと三日月に笑ひ歌ふ

「たゞの機関人形とは出来が違ふのであります

涙も流せば血も流す、児童人形(オートマタ)は帝國製」